本日の珈琲

学生の頃は、一人で喫茶店に何時間もいた。
ある日、青山を歩いている時、目に付いた喫茶店に入ってみた。
使い込み渋いいい色になった木のテーブル。
JAZZが静かに流れ、マスターが篭の中の炒った珈琲豆を選別していた。
何より出された珈琲の美味しいこと。
「これこそ探し求めていた喫茶店だ」―――それが『大坊珈琲店』との出逢いだ。
それから、月に二、三回は通うようになり、大学卒業前には
「ミルクだけでしたよね」とマスターに顔を覚えられるまでに。
その店が、知る人ぞ知る伝説の店で向田邦子も生前通ってたと知ったのはずっと後のこと。
働きだしてからは、行く頻度は二年に一回ぐらいになってしまった。
今日、青山に用があったので、久々『大坊珈琲店』に入った。
マスターが丁寧に入れてくれたブレンドを飲みながら至福な時間を過ごした。
世の中がどんなに変わろうと、『大坊珈琲店』の珈琲とマスターの姿勢は変わらぬのだろうな。